阿部明子・是恒さくら展「閾 -いき- を編む」

投稿日:2019.07.16

企画展
上:阿部明子:≪こどもが目付けた桜≫(和算書『塵劫記』の「椿の目付け字」から)/2019年
下:是恒さくら:リトルプレス『ありふれたくじら』Vol.5 原画刺繍/糸、布、藍、染料/2018年

 
 
 今回は、写真家・阿部明子、美術家・是恒さくらのお二人をご紹介します。
 阿部は、自身が生活を送る場所の特性やその生活の中で繰り返し見続ける風景を主題に、複数の写真のレイヤーを重ねた作品や、展覧会ごとに独自の展示方法を提示するなど、多角的な視点を取り入れながら、写真の新しい表現方法を模索し、その可能性を追求しています。
 是恒は、アラスカや東北各地の捕鯨、漁労文化についてフィールドワークと採話を行い、リトルプレスや刺繍、造形作品として発表しています。個々人の記憶に潜む視点の豊かさに目を向けたその作品は、鯨と人との関係性にとどまらず、そこに広がる自然と人との尊い結びつきを伝えています。
 タイトルにある「閾(いき)」とは、ある感覚や刺激に気づくか気づかないかの境界を指す言葉です。私たちは常にものごとの曖昧さの中で、視覚や聴覚、触覚など、あらゆる感覚を繰り返し受け、時に記憶と結びついたりしながら、自分自身や外の世界をとらえています。風景を<編む>ようにして、自己と他者の境界を探りながら制作する阿部と、人と自然の関係を問い続け、その物語を本や刺繍として<編む>是恒の、両作家が<編む>表現は、目に映る風景を重ね合わせ、透かし見るように、表層から更にその深層へと向かい、ものごとの本質や真実を見つめようとしています。
 本展では、自然から導き出される美しい図形が描かれた算額*に学び、和算家の視点を取り入れた阿部の新作と、松島湾域に残る鯨の骨に焦点をあて、各地の鯨の骨にまつわる物語と結ぶ是恒の新作を含む作品群を同時にご覧いただきます。
 二人の表現に触れることでさまざまな思いが交差し、つながりあい、私たちがより豊かな視点をもってこれからの時代を歩んでいくための一助となることを願っています。
*日本独自に発展した数学「和算」の問題や解法を記して神社や仏閣に奉納する絵馬。
  

2019年7月6日[土]−8月25日[日]
塩竈市杉村惇美術館 企画展示室
10時~17時(入館受付は16時30分まで)
月曜休館(但し7/15・8/12は開館、翌日休館)

観覧料/企画展+常設展セット(団体料金):
一般500円(400円) 大学生・高校生400円(320円)
中学生以下無料
※団体料金は20人以上。
※メンバーシップ会員カード、各種障がい者手帳を提示された方は割引。

主催:塩竈市杉村惇美術館
共催:塩竈市
協力:志波彦神社・鹽竈神社 日本数学史学会 岩手県和算研究会 七ヶ浜町歴史資料館
後援:河北新報社 朝日新聞仙台総局 毎日新聞仙台支局 読売新聞東北総局
TBC東北放送 仙台放送 ミヤギテレビ KHB東日本放送
エフエム仙台 BAYWAVE78.1FM 宮城ケーブルテレビ株式会社 仙台リビング新聞社

問合せ:塩竈市杉村惇美術館
〒985-0052 宮城県塩竈市本町8番1号
TEL 022-362-2555/FAX 022-794-8873
  


  
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阿部明子(あべ あきこ)
写真家。1984年宮城県美里町(旧小牛田町)生まれ、東京都在住。2007年東北芸術工科大学 デザイン工学部情報デザイン学科 映像コース(現映像学科)卒業。シェアハウスなど、自身が生活を送る場所の特性やその生活の中で繰り返し見つづけることになる風景を主題に、多重露光で複数の写真のレイヤーを重ねた作品をはじめ、写真の新しい表現方法を模索しながら制作。ものや風景、他者との境界を探り、多角的な視点を取り入れながら、写真表現の可能性を追求している。
【個展】
2017年湊雅博プロデュース「事象」展「レウムノビレ」(MUSEE F/東京)
2017年仙台写真月間「温室の庭」(SARP仙台アーティストランプレイス)
ほか
【グループ展】
2012年「トーキョーワンダーウォール公募2012」(東京都現代美術館)
2015年「リフレクション展」(表参道画廊+MUSEE F/東京)
ほか
【受賞】2018年「平成29年度宮城県芸術選奨」新人賞
ホームページ:http://abeakiko.com/

特別審査員による講評(一部抜粋) ※敬称略
阿部さんの表現は、大切な感覚を手繰り寄せて、気配のようなものに触れようとする行為だなと感じました。今回彼女が触れようとしたのは、塩竈算額に描かれた摩訶不思議な世界の真理のようなもの。面白い素材と出会うものですね。必然的な出会いなのだろうなと感じています。
藤浩志(美術家・秋田公立美術大学教授)

発表歴も充分、当地塩竈との関係も強い必然性が感じられ、「写真を編む」というワードからは写真というメディアにとどまらない可能性が感じられる。今回の支援をきっかけに、思ってもみなかった海原へと漕ぎ出していって欲しい。
三瀬夏之介(日本画家・東北芸術工科大学教授)

写真メディアならではの手法を多用して制作してきた作者は、プレゼンテーションの仕方も特徴的であり、展覧会ごとにテーマに沿った提示方法を工夫してきた。そのような展示手法も含めて、記憶に関するテーマ設定などが引き続き深化し、さらに別領域へと超えてゆくことも期待される。
和田浩一(宮城県美術館学芸員)
  


  

是恒さくら(これつね さくら)
美術家。1986年広島県呉市生まれ、仙台市在住。2010年アラスカ州立大学フェアバンクス校卒業。2017年東北芸術工科大学大学院 修士課程地域デザイン研究領域修了(優秀賞)。2018年より東北大学東北アジア研究センター学術研究員。アラスカや東北各地の捕鯨、漁労文化についてフィールドワークと採話を行い、リトルプレスや刺繍、造形作品として発表。個々人の記憶が持つ視点の豊かさに目を向け、人と自然の尊い結びつきを伝え続けている。
【個展】
2018年「N.E.blood 21: Vol.67 是恒さくら展」(リアス・アーク美術館/気仙沼)
2018年「ほつれを・まつる ~リトルプレス『ありふれたくじら』2016-2018~」(Cyg art gallery/岩手)
ほか
【グループ展】
2017年「新・今日の作家展2017 キオクのかたち/キロクのかたち」(横浜市民ギャラリー/神奈川)
2018年「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」企画展「現代山形考」(東北芸術工科大学/山形)
ほか
【受賞】
2012年「第64回広島県美術展」 奨励賞
2013年「京都府美術工芸新鋭展 2013京都美術ビエンナーレ」 入選
ホームページ:https://www.sakurakoretsune.com/

特別審査員による講評(一部抜粋) ※敬称略

巨大なクジラをモチーフにした表現と1ミリ単位の刺繍という行為の妙なスケールギャップが、作品の魅力にもつながっていると感じています。世界は未知のものばかりで、その中で人はどのように捉え描くのか。そんな単純なところに私たちはいるのだということを思い知らされます。
藤浩志(美術家・秋田公立美術大学教授)

クジラという具体性から人々の「記憶のための装置」へと、アートの手法を通じて見事に昇華させている。この地を起点とし、瀬戸内、アラスカなどへ開かれていること、さらには世界を考えることに繋がっていることを思わせる作品群を、この杉村惇美術館で展開して欲しい。
三瀬夏之介(日本画家・東北芸術工科大学教授)

作者のクジラにまつわる興味や関心は、出身地や留学経験とも密接に関係しながら導き出された必然性のあるものと言える。作者の制作で特徴的な「刺繍」や「藍染め」の技法が、制作コンセプトと関連しながら、より作品のダイナミックさへ結びついてゆくことを期待している。
和田浩一(宮城県美術館学芸員)
  


  
若手アーティスト支援プログラム「Voyage」とは、これからの活躍が期待される若手アーティストの可能性に光をあて、新たなステップを提供することを目的に、展覧会を中心としてトークやワークショップなど多様な表現の機会を設ける事業です。これまで、多くの人々にとって新たな才能や感性と出会える場となるよう毎年度ごとに異なる作家と共に取り組んできました。展示制作にかかる費用の一部のほか、企画や広報などに関する支援を通して、地元にゆかりのある若手アーティストの意欲的な表現活動をサポートし、発表の場を提供します。