レポート:若手アーティスト支援プログラムVoyage「日々是好日 ー根づくもの 脈々と」

投稿日:2016.06.26

レポート

美術館ボランティア・JUNBIサポーターの坂爪奈央子さんによる、若手アーティスト支援プログラムVoyage「日々是好日 ー根づくもの 脈々と」のレポートです。
坂爪さんは、展示期間中は展示ガイドとして、作品を見守りながら案内し、お客さまからの声をさまざま伺っています。
展示ガイドは、鑑賞力を深め、作品を伝える活動です。

今回の展覧会は、県内外から、幅広い世代の方々にご覧いただけ、のべ1000人を越える入場者がありました。これからを担う地元出身のアーティストの作品や地に根ざした活動をご紹介することができました。

展覧会写真:大江怜司

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鈴木祥太さんの展示


ふっと息を吹きかけたら飛んで行ってしまいそうな蒲公英の綿毛、塩竈桜のぷっくりとした可愛らしいフォルム、そしてその花びら一枚一枚の細かな線など、展示作品のすべてが金工細工で作られていることにただただ驚きました。
「塩竈桜」や「蒲公英」から始まり「南天」で締めくくられる展示からは、季節の移ろいも感じました。地元のお客様が多いせいか「塩竈桜」をじっくり感慨深くご覧になっている方がたくさんいらっしゃいました。桃色と銀色が混ざったような上品な花の色が印象的な作品でした。
お花屋さんで売っているような豪華で鮮やかな花ではない、私たちが普段目にする(もしくは見落としがちな)道端に咲いている草花に注目し金工細工で新たに命を吹き込んでいく鈴木さんの作品。慌ただしく過ぎていく毎日ですが、足元をもっとゆっくりと観察してみるとこんなに美しい世界が広がっているよ、と鈴木さんの作品に教わったような気がします。そのせいか、これまで色鮮やかな花ばかり花瓶に入れていたのが、最近では庭の片隅に生えているような雑草、野草を好んで飾るようになりました。

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浅野友理子さんの展示


今回の作品の舞台となった浦戸諸島を実際に訪れ、その土地に住む人々から話を聞いてそれを作品にしたという浅野さん。
「椿や椿や」や「あなご獲り」などのモチーフとなっている椿の収穫、あなごの収獲は、今は行われていない方法だそうですが、島民の方々のお話を浅野さんが作品にすることでその営みや文化が生き生きと蘇ってくるようでした。
お客様からは「これは油絵?日本画?」というご質問や、「遠近が感じられなくて切り絵のよう」、「珍しいタッチの絵だね」というご感想をいただきました。油彩と日本画に使われる岩絵具などを同じキャンバスに使用する浅野さんの手法から生まれる切り絵のような色使いやタッチは、温かみがあって懐かしさを感じる作品ばかりでした。浅野さんが今回の展示のために作成された冊子には、浦戸諸島を訪れた中で出会った島民の方々とのエピソードやスケッチがまとめられており、その冊子を読みながら作品を鑑賞すると、躍動感溢れる作品に感じました。
展示の見守りをしている中で出会ったお客様の中には、実際に野々島の白菜の栽培に携わっている方がいらっしゃって、「種の収穫祭」の絵を前にその方から野々島の白菜の種や栽培の工程についての貴重なお話を聞けたのが良い思い出です。
塩釜市に住んでいながらなかなか浦戸諸島に行く機会は少ないですが、まだそこに根付く日々の営みをこの目で見てみたいと思いました。

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