若手アーティスト支援プログラムVoyage
かんのさゆり・菊池聡太朗展
「風景の練習 Practicing Landscape」

投稿日:2021.02.20

企画展


 

 6回目を数える今回は、公募により選考された写真家・かんのさゆり、建築/美術作家・菊池聡太朗のお二人をご紹介します。
 かんのは、今では誰もが手軽に撮影できるデジタルカメラを用いて大学在学中の2000年代初頭から写真作品を制作しはじめ、現代日本の都市空間の奇妙さとその中で生きる人々の光景を主なテーマとしています。今回の展示では自らの暮らす地方の住宅地への視点を中心に、震災後各地で続く復旧・復興工事や、宮城県内の沿岸部や内陸に広がる風景を撮影し続けています。刻々と移り変わっていく風景の変貌を見つめ、記録し続けるかんのならではの鋭い視点から生まれる作品は、常に対象の表面を鮮明にとらえようと試み、風景からこの時代の心性と人々の動向までを映し出そうとしています。
 菊池は主に風景のドローイングや石・木などの立体物、建築素材を用いて、作品・空間との出会い方や経験を変化させるようなインスタレーションに取り組んでいます。菊池は2018 年に、留学先のインドネシアの古都ジョグジャカルタで、即興的な増改築が繰り返されている、とある家に出会います。設計者の死後も、そこに住み、活動する人によって手が加えられる特異な内部空間を持つ家で、その空間性や変容の痕跡を記録するフィールドワークを行いました。そうした観察を通して作品を制作し、一見閉じられた室内の風景や個人的な経験をその外側の空間や社会へ広げ、繋ごうとする立体的な表現の試みを重ねています。
 本展のような一定期間しか開かれない展示自体もまた仮設の空間であり、様々なことを試み、実践する練習の場でもあります。
 本展では、かんのによる、仙台近郊や石巻、閖上、女川などの沿岸地域で撮影したここ数年で現れた風景、新しい住宅地を中心とした写真作品と、菊池による日本から6,000km離れたとある家についての考察に、塩竈やその周辺地域を訪ね歩き出会った素材を加えたインスタレーションを、「風景の練習」というテーマのもとに構成し展示いたします。
 戦後の公民館としての歴史を持つ、塩竈市杉村惇美術館という場所性への新たなアプローチを模索した今回の二人の表現から、先行きの不透明なこの時代において、現在、そしてこれからの「風景」についてともに思いをめぐらせ、学ぶ機会になれば幸いです。

 


 

2021年2月6日[土]~3月28日[日]

月曜休館
 
塩竈市杉村惇美術館 企画展示室
開館時間:10時~17時(入館受付は16時30分まで)
観覧料/企画展+常設展セット(団体割引料金/20名以上):
一般500円(400円) 大学生・高校生400円(320円) 
中学生以下・メンバーシップ会員無料

※各種障がい者手帳を提示された方は割引。
 
主催:塩竈市杉村惇美術館  
共催:塩竈市
助成:公益財団法人カメイ社会教育振興財団(仙台市)
後援:河北新報社 朝日新聞仙台総局 毎日新聞仙台支局 読売新聞東北総局 
   TBC東北放送 仙台放送 ミヤギテレビ KHB東日本放送
   エフエム仙台 BAYWAVE78.1FM ケーブルテレビマリネット
   仙台リビング新聞社
 
若手アーティスト支援プログラム「Voyage」とは、これからの活躍が期待される若手アーティストの可能性に光をあて、新たなステップを提供することを目的に、展覧会を中心としてトークやワークショップなど多様な表現の機会を設ける事業です。これまで、多くの人々にとって新たな才能や感性と出会える場となるよう毎年度ごとに異なる作家と共に取り組んできました。展示制作にかかる費用の一部のほか、企画や広報などに関する支援を通して、地元にゆかりのある若手アーティストの意欲的な表現活動をサポートし、発表の場を提供します。
今年度の特別審査員は、藤浩志氏(美術家・秋田公立美術大学大学院教授)、三瀬夏之介氏(日本画家・東北芸術工科大学教授)、和田浩一氏(宮城県美術館学芸員)です。
 
 
問合せ:塩竈市杉村惇美術館
〒985-0052 宮城県塩竈市本町8番1号
TEL 022-362-2555/FAX 022-794-8873

本企画は手指の消毒や換気、三密を避けるなど、新型コロナウイルス感染拡大防止対策をして行います。また、ご来館の方にはマスクの着用をお願いしています。今後の状況次第ではオンラインでの実施など、内容が変更になる場合があります。変更がある場合は当館ホームページ、SNS等でお知らせいたします。
 
 


 
 

©︎Sayuri Kanno

 

かんのさゆり

写真家。1979年宮城県生まれ、宮城県仙台市在住。2002年東北芸術工科大学 デザイン工学部情報デザイン学科 映像コース(現映像学科)卒業。現代の日本の都市空間とそこで生きる人々の光景をデジタルカメラで撮影し制作をしている。近作では都市部から自身の暮らす地方の住宅地周辺へ、震災後に更新され続ける風景を中心に撮影を続けている。2001年から写真を継続的にアップしているサイトがある。(白い密集 http://sayurikanno.com

【個展】
2019年 仙台写真月間「New-Standard Mixture」(SARP仙台アーティストランプレイス)
【主なグループ展】
2003年「New Digital Age」(Krasnoyarsk Museum Centre/ロシア)ならびにWeb
2005年「New Digital Age2」(Le Vall Gallery/ロシア)
2015年「“写真の使用法-新たな批評性へ向けて”」(東京工芸大学中野キャンパス3号館ギャラリー/東京)
【受賞】
2004年「第22回写真ひとつぼ展」入選
2007年「第27回写真ひとつぼ展」入選
 
 
特別審査員による講評 ※敬称略

震災後の復興に伴って拡がりゆく風景への感覚を、客観的に、冷静に、シャープに、写真というメディアで固着してゆく。その作業を重ねることで復興後に広がる都市の表面について語ろうとするアプローチに共感しました。震災以前のその地域の風景は様々な年層の多くの襞(ひだ)で構成されていたのだと思います。数百年前から残る寺院や樹木、戦前から残されてきた石造りの構造物、戦後の復興で作られた区画や経済成長期に多く流通した建材で作られた建築物、そして世代の交代とともに入れ替わる商品など様々な時間軸を持つものが風景の構成要素として多層に折り重なっています。ところが作家が撮り続けている風景は震災以降の均一の年齢の、今の時期にしか流通していない商品で構成された均質な風景なのかもしれません。そんな環境の中で日常を暮らす情緒への深い問いと現実を突きつけられているように感じています。
藤浩志(美術家・秋田公立美術大学教授)

かんのさゆりのポートフォリオ「New Standard Landscape」を見たとき、思わず懐かしいという感覚に包まれた。それは彼女の作品が凡庸だからなのか、それとも私自身が新興住宅地育ちだからなのかがしばらくはわからなかった。面談を通して、彼女が東北に生まれ育ったことや震災復興などに対して、静かながらも強い思いを抱いてシャッターを切っていることが伝わってきた。簡易で仮設的な風景に一瞬垣間見える人々の生々しい痕跡、匂い、癖、生活。もうそれを奇妙なものだとは思えなくなってしまっているペラペラな書き割りのような世界に私たちは生きている、そんなことを思わせる写真群だった。そう、彼女が表現している風景は我々の似姿なのだと思う。ここ東北の地で暫定的な風景がどのように見えるのか楽しみだ。
三瀬夏之介(日本画家・東北芸術工科大学教授)

都市周辺に広がる郊外住宅地や、幹線道路沿いのロードサイドの光景は、日本の高度経済成長やモータリゼーションがもたらした結果である。そのような資本主義の果てに生まれた日本の風景を、写真によってあるがままに写し取ろうとする仕事は、何人かの作家によって過去にもあった。2011年以後、東北地方の沿岸部では、東日本大震災で被災した地域の復興にともなう造成の光景が新たにそこに加わることになる。画一的で、特徴もあまり感じられない両者の風景だが、出自は全く異なっている。位相の違う両者の風景の先には何が見えてくるのだろうか。
戦後日本の、そして東北地方に生まれ育ち、それらを目の当たりにしてきた作者は、その風景を作品として表現する必然性を感じてきた。ありふれた風景の中に横たわる問題と、どのような異質性と同質性がそこに露わになるのかを期待したい。
和田浩一(宮城県美術館学芸員)
 
 


 
 

菊池聡太朗≪燃えた山≫2019年(紙にオイルパステル)

菊池聡太朗「家事」2017年 展示風景


 

菊池聡太朗

建築/美術作家。1993年岩手県生まれ、宮城県仙台市在住。2017-2018年 にインドネシア共和国ガジャマダ大学へ留学。2019年東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻修了。主にドローイングや、石や木などの立体物や建築素材を用いて作品や空間との出会い方や経験を変化させるようなインスタレーションに取り組む。

【個展】
2017年「家事」(Gallery TURNAROUND/宮城)
2019年「WISMA・KUWERA(ウィスマ・クエラ)」(Gallery TURNAROUND/宮城)
2019年「Please Do Not Enter The Exhibition Room」(豊島唐櫃美術館/香川)
2019年「喫茶荒地」(Gallery TURNAROUND/宮城)
【主なグループ展】
2017年「相転移/ phase transition」(KUGURU/山形)
2019年「Collective Storytelling -Contemporary Art from Yogyakarta,Indonesia」(Synesthesia/ニューヨーク)
2019年「Collective Storytelling」(旧伊吹小学校教室/瀬戸内国際芸術祭2019)
【主なプロジェクト】
2018年「NIWAINI」(ASP[Artist Support Project] /インドネシア ・ジョグジャカルタ)  
2020年「POLYGONS」(せんだいメディアテーク/宮城)  グループ「建築ダウナーズ」として
【受賞】
青葉賞(東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻 修士設計作品「記録と建築」最優秀賞)
 
 
特別審査員による講評 ※敬称略

インドネシアの地方都市にある特異な空間における体験のドキュメンテーションを、塩竈の歴史的建造物に新たな空間として再構成するという試み。美術表現の新しいアプローチとして大きな可能性を感じています。現在の日本社会に存在する空間の多くは、建築物も含め大量に流通している商品の構成によって作られています。慣習や常識から逃れて新しい空間体験を作ろうと試みても、法規や条例、既存の建材、そして大量の情報によって束縛され、多くの困難とぶつかります。人間がそこに暮らしながら感性を最大限に活かし、それぞれの空間を制作し、獲得してゆこうとする態度はとても貴重です。過去に作られた特異な空間を取材しその要素を引用し、作家の感性や情緒のようなものを中心に据えながら、過去の創作者へ敬意を払い、新しい空間へのアプローチを試みる態度に共感しました。
藤浩志(美術家・秋田公立美術大学教授)

すべてのエントリーシートを見終わり、一番印象に残っていたのが菊池聡太朗によるプランだった。彼が留学先であるインドネシア、ジョグジャカルタで運命的に出会った増改築を重ねる家を、公民館として創建されたここ杉村惇美術館に移植するという荒唐無稽な計画は、なぜここ塩竈でやるべきなのかという根本的なコンセプトを欠いているように最初は思った。しかし同時に、地域の歴史や遺産を掘り起こす流行りのリサーチワークとは正反対の、今ここで全く別の場所を想像することの意味と可能性を私に突きつけてもいた。場所を記述するための建築学的アプローチや、独学の魅力的な絵画などを駆使し、彼独特の嗅覚でこの場所を鷲掴みにしながら、彼の地と結びつける風景が見たいと強く思った。荒唐無稽を実現するのがアーティストの力なのだから。
三瀬夏之介(日本画家・東北芸術工科大学教授)

様々な人が入れ替わり立ち替わり出入りしながら、断続的に建物に手を加えたり、その一部で生活を始めたりするなど、常に変化することを止めない特殊な建築空間を作者は過去にリサーチし、そのあり方に今後の活動の確かな糸口を見つけたようだ。それは、壁や扉などの物理的な側面はもとより、その空間自体をどう考えるかについても、自由なアクセス権が広く保証されているような空間である。そこにあるのは、原作者という一つの中心的な存在が全体を統括したり、一つの視点から全体像が把握できたりといったこととは全く異なる価値基準である。このような空間のあり方は、建築だけに限らず、今日の表現一般に強い示唆を与えるだろう。
Voyage展でも、上記リサーチが下敷きになるようだが、インスタレーションの舞台となる展示室の固有性を、作者の身体性をもとに再び紐解きながら、その空間を縦横に開いてもらいたいと思う。
和田浩一(宮城県美術館学芸員)