ことばで紡ぐ 釣舟富紀子展「ROADSTEAD」、折田千秋展「コレクティブ·イメージ」

投稿日:2023.09.16

企画展


 
 
若手アーティスト支援プログラムVoyage2022 釣舟富紀子展「ROADSTEAD」、折田千秋展「コレクティブ·イメージ」をご覧いただいた方々から、展覧会や作品についてお寄せいただいたコメントをご紹介いたします。
さまざまな視点から自由に紡がれることばの数々が、鑑賞者の視野を広げ、本展のイメージが豊かに広がっていくことを願っています。

 

(敬称略)
坂爪奈央子(チルドレンズ・アート・ミュージアムしおがま 対話型鑑賞プログラム担当)
志村春海(石巻アートプロジェクト実行委員会)
渡邉曜平(文化施設職員)
 
展覧会概要
釣舟富紀子展「ROADSTEAD」
折田千秋展「コレクティブ·イメージ」
 


 

2022年9月3日更新

 
坂爪奈央子(チルドレンズ・アート・ミュージアムしおがま 対話型鑑賞プログラム担当)
チルドレンズ・アート・ミュージアムしおがまでは、プログラムの一環として定期的に市内児童クラブとの対話型鑑賞プログラムを実施しています。今回は塩竈市立第一小学校と塩竈市立玉川小学校の児童クラブと一緒にVoyageを鑑賞しました。
 
今回は釣舟さんの作品横に「ここはどんな場所?」「どんな会話が聞こえてくる?」などの「問いかけカード」を貼り、作品をさらに掘り下げて鑑賞できる工夫をしました。スペシャルゲストとして釣舟さん本人がプログラムに参加され、子どもたちと作品についておしゃべりする姿が印象的でした。
 
折田さんの《コレクティブ・イメージ_塩竈眺望》のコラージュでは、「この魚は〇〇で深海に住んでる」、「この虫は△△!」と生き物について教えてくれる児童も数名いました。子どもならではの視点に触れることで、知識や情報にとらわれずに作品を自由に味わうことの大切さや楽しさを改めて感じました。
 
両作家とも一見すると「見慣れた」「知っている」モチーフを扱っていますが、作品の細部までじっくり見て、他者と会話を交わしながら鑑賞することで、一人の鑑賞では気づかなかったことが見えてきます。子どもたちとアートの距離がぐっと近くなったと実感した展示でした。

 


 
志村春海(石巻アートプロジェクト実行委員会)
ミニサイズの絵画作品群は、動物(生き物?)がどこかにいるイメージで、一見メルヘン…と思いきや妙にリアル。細かい描写のみならず、建物や路地のシミや汚れや風化、雑多な店舗の生活感など、生っぽさを感じました。また、微妙な視点(見下ろしていたり、物陰から目撃したような)も、なんともいえない現実味…。
帰りにいただいたハンドアウトには、塩釜の地図とともにモチーフの場所が紹介されていました。涼しくなったら、塩釜にまた来て、ここにある場所をウロウロしたくなりました。(執筆現在は2023年7月末、全国的な猛暑続き。絵の中のじっとり感も羨ましかったです)

 


 
渡邉曜平(文化施設職員)
展示室に入った瞬間、最初の作品《5類書架》の小ささに驚いた。長辺が30cmもない小さな画面。細部を見るために体をかがめた。室内の緻密な描写を目でなぞり、視線が図書館内部から窓の外の風景へと抜けていったとき、まるで、違う世界を上から”覗いている”ような気分になった。
図書館の天井板の隙間からこっそり覗きこんでいるような、そんな身体感覚が小さな画面から呼び起こされる。小さい作品が点々と並ぶ展示室は、もう一つの世界につながる覗き穴が並んでいるようだった。
 
釣舟富紀子さんの「ROADSTEAD」展に登場する風景は、塩竈に実在する場所を土台にしており、地元の人が見ればすぐに場所が特定できるほど的確に描かれていると聞いた。だが、実際の風景と比べると、建物の配置や遠近が変更されたり、計画だけで実現しなかった建物があったり、空間も時間も手が加えられているようだ。一見、現実をそのまま描いたように見える日本画材による風景画も、実際とは違う距離感に調整されているらしい。釣舟さんは、塩竈にある/あった/ありえた様々な要素をパズルのように巧妙に組み合わせながら、「もう一つの塩竈」といえるパラレルワールドを作り上げている。
この世界を舞台にして、人間や半人半獣(ときに半魚、半虫)、黒いオバケのキャラクターたちが日常生活を営む姿が描かれる。いくつかの作品にはニホンカモシカの顔をした子どもが主人公のように登場し、それを順々に見ていくだけで、頭の中に絵を連結するストーリーのようなものが立ち上がってくる感覚を覚える。キャラクターたちはどこかへ向かう途中だったり、会話していたり、常に次の展開を予感させる。釣舟さんの充実したマンガ的表現力に牽引されて、鑑賞者は登場人物とともにパラレルワールドの塩竈を散策することになる。
 
パラレルワールドでの、架空の住人たちによる営みという、二重のファンタジーを通して描かれる、もうひとつの塩竈。舞台となる風景は「背景」として絵の中で埋没することなく、登場人物と同じように主役級の役割を与えられ、饒舌にこの世界のことを伝えてくれる。
現実とファンタジーを巧妙に混在させる構想力と巧みな描写力、そしてなにより塩竈への深い愛着が実現させている世界だ。
このような作家がいるなんて、塩竈は幸せな場所だなと素直に感じた。