【7/13〜】若手アーティスト支援プログラムVoyage2024 土井波音展「汽水の幽霊」

投稿日:2024.06.08

企画展
土井波音「Untitled(構想段階のコラージュ)」

 

 

若手アーティスト支援プログラムVoyage2024

土井波音展「汽水の幽霊」

 

本プログラム10回目を数える今回は、公募により選考されたアーティストの土井波音と、画家の渋谷七奈をご紹介いたします。

 土井は、幼少期から“全てのものが生きているように見える”という感覚を抱いてきたと言います。その感覚は生命や物質がもつ有機性、有限性の枠を越え、彼女にとっての「生命の存在」という境界を曖昧にしています。そうした自身の経験をもとにサウンドインスタレーション作品を制作し、既成概念に向き合い、現実の拡張を試みています。

 本展は世阿弥による能の演目「融」(とおる)を参照した作品を表現します。作中で源融(みなもとのとおる)は、憧れた塩竈浦の風景を模した庭を京都の自邸につくり、幽霊となってもなおその風景に執着します。土井はかつて都会や異国の地へと憧れた自身を源融に重ね、ここ塩竈を舞台に、源融のように幻想に取り憑かれた幽霊と化して作品を制作。自身が日々往来した石巻ー塩竈ー仙台を結ぶ仙石線、その中間に位置する塩竈を、田舎と都会を繋ぐ境界、そして過去ー現在ー未来という時間軸と想起し、塩竈をふたつの幻想に挟まれた現在とも位置付けます。自身の記憶にもとづき採取した音をはじめ、旋律、語り、環境音、リズムといった様々な要素が重層的に展開されます。鑑賞者の鑑賞後の動きも構成要素となる本作は、観客の想像力を伴って情景を浮かび上がらせることで味わう、能の鑑賞と通じるところがあると言えるでしょう。

 本展は、幻想が「幸福と共存する現実への手がかり」となることを目指します。新たな感覚が鑑賞者の日常へと地続きに浸透し、今を生きるための内なる力を引き出す機会となることを願っています。

 

2024年7月13日(土)~9月1日(日)

月曜休館(7/15,8/12は開館、翌日休館)
 
塩竈市杉村惇美術館 企画展示室2
開館時間:10時~17時(入館受付は16時30分まで)
観覧料/企画展+常設展セット(団体割引料金/20名以上):
一般500円(400円) 大学生・高校生400円(320円)
中学生以下・メンバーシップ会員無料

※各種障がい者手帳を提示された方は割引。
 

主催:塩竈市杉村惇美術館  共催:塩竈市
助成:公益財団法人カメイ社会教育振興財団(仙台市)
後援:河北新報社 朝日新聞仙台総局 毎日新聞仙台支局 読売新聞東北総局
   tbc東北放送 仙台放送 ミヤギテレビ khb東日本放送 エフエム仙台
   BAYWAVE78.1FM 宮城ケーブルテレビ株式会社 仙台リビング新聞社

 

若手アーティスト支援プログラム「Voyage」は、これからの活躍が期待される若手アーティストの可能性に光をあて、新たなステップを提供することを目的に、展覧会を中心としてトークやワークショップなど多様な表現の機会を設ける事業です。これまで、多くの人々にとって新たな才能や感性と出会える場となるよう毎年度ごとに異なる作家と共に取り組んできました。展示制作にかかる費用の一部のほか、企画や広報などに関する支援を通して、地元にゆかりのある若手アーティストの意欲的な表現活動をサポートし、発表の場を提供します。今年度の特別審査員は、石倉敏明氏(人類学者・秋田公立美術大学大学院准教授)、小田原のどか氏(彫刻家・評論家・出版社代表)、鹿野 護氏(デザイナー・東北芸術工科大学教授)です。

 
 
問合せ:塩竈市杉村惇美術館
〒985-0052 宮城県塩竈市本町8番1号
TEL 022-362-2555/FAX 022-794-8873

 


 

関連企画

ギャラリートーク 土井波音・渋谷七奈

2024/7/13[土]14時〜(60分程度)企画展示室

作品解説等、作家によるギャラリートーク。
※要展示観覧料(メンバーシップ会員・中学生以下無料)。要予約(定員15名)
申込みはこちらから

 


 

クロストーク 永岡大輔×土井波音

2024/7/27[土]13時〜(2時間程度)サロン

既成概念に基づいたこれまでの生活様式を根底からとらえ直し、転がる家での生活の実践、検証を重ねている永岡氏と、≪球体の家≫のプロジェクトから「想像や幻想がどれほど現実に影響を与え、拡張させられるのか」を、また、それに伴う他者や社会の既成概念にどのように向き合っているのかなどをテーマとします。
※要展示観覧料(メンバーシップ会員・中学生以下無料)。要予約
申込みはこちらから

詳細ページ

 


 

土井波音 ライブパフォーマンス

2024/8/25[日] 13時 大講堂

展示コンセプトをもとに、作家自身も鑑賞者と同様、展示期間を通して体感した幻想を元に、あらためて現在の塩竈の風景の見え方を表現します。
サポート:武山奏仁(ベース)
※要展示観覧料(メンバーシップ会員・中学生以下無料)。

武山奏仁(たけやま・そうと)
1997年石巻市出身。バンド「ベス」、「Murray a cape」のベーシスト。バンド活動と並行してソロ活動、サポート演奏等多岐にわたって活動中。
X:@sit1104 IG:soto_sit
ベス X:@beth__come IG:beth__come
Murray a cape X:@Murray_a_cape

 

 


 

食事が運ばれてきそうもない食卓で, Kinjinhos 2024年  Photo By Shumpuu Doi

 

 

Continues As Hope 2022年

 

 

土井波音(どい なみね/Namine Doi)
アーティスト/1997年宮城県石巻市出身。2019年、ロンドンのUniversity of the Arts London Foundation Diploma 修了後、石巻に戻り2023年5月まで石巻のキワマリ荘にて「momo」を運営。その後、現代美術・音楽分野を中心に活動を続けている。自らの実体験や幼少期からある超自然的感覚をきっかけに、国内外の⺠話、童話、怪異などをリサーチする。シュルレアリスムの観点からサウンドインスタレーションとして表現することで摂理や既成概念を曖昧にし、現実の拡張を試みる。
https://naminedoi.myportfolio.com/

 


 

■特別審査員による講評 ※五十音順、敬称略

 

石倉敏明(人類学者・秋田公立美術大学大学院准教授)

土井はサウンドインスタレーション作品を通して、複数の感覚回路をユニークな仕方で結びつける。JR仙石線で仙台・石巻間を往復する学生生活を送った土井にとって、本塩釜駅は「都会と田舎」をつなぐ境界の地であったという。かつて都会に属することを願ったという彼女は、4年間のロンドン滞在を経て帰国した後、大都市から離れた故郷の石巻で「momo」という展示スペースを運営してきた。本展示構想では、その仙石線エリアをルーツとする世阿弥の能「融」を題材として、陸奥塩竈浦の風景を都に作り、亡霊となってこの地と関わり続けた源融の物語を現代と接続しようとする。地域に関わる歴史物語を着想の源泉としながら、個人的体験にも通ずる多感覚的なインスタレーション作品を構築する実験性を高く評価したい。

 

小田原のどか(彫刻家・評論家・出版社代表)

土井のプランが参照したのは、五番目物・貴人物と呼ばれる世阿弥による能「融(とおる)」だ。本作は、在りし日の面影を失ってしまった、かつての左大臣・源融(みなもとのとおる)の大邸宅跡地が舞台だ。塩竈の風景を愛した融は、海のない京都の自邸の庭にこれを模し、毎日難波津から潮水を運ばせて塩を焼いたという。本作を下敷きとしつつ、視覚によらず音響のみを軸とした応募プランの完成度は高く、融の幽霊を塩竈にインストールせんとする気概に満ちており、作家本人によるプレゼンテーションにも心が躍った。とくに感銘を受けたのは「融」に描かれた「再現された塩竈」を現実の塩竈と重ねただけでなく、塩竈市杉村惇美術館の最寄り駅である仙石線・本塩釜駅、この仙台と石巻をむすぶ仙石線を単線の時間軸に例えたうえで、仙石線の中央に位置する本塩釜を、過去と現在の折り返し地点と捉えたことである。無数に重なる時間軸の結節点として、塩竈市杉村惇美術館という場・機能が活用されることを大いに期待し、評価した。

 

鹿野 護(デザイナー・東北芸術工科大学教授)

土井の視点は、無機物と有機物、過去と未来、田舎と都会、外側と内側といった、常に境界に向けられている。境界は境界だけで単独で存在しえない。二つの世界が重なり合い、混ざり合う場所に生まれる。それは曖昧でもあり一種の幻のようなものである。今回の企画も、世阿弥の「融」における源融が執着した塩竈と、土井自身にとっての石巻と仙台の汽水域としての塩竈。この二つの世界の、時を超えた境界であるとも言える。計画されているサウンドインスタレーションでは複数のスピーカーが用いられ、プログラマブルなシステムを通じて音がコントロールされる。土井が生み出す音は、空気の揺らぎを通じてどのような幻や境界を作り出すのだろうか。実際に展示を体験するのが楽しみである。

 

特別審査員 プロフィール

石倉敏明(人類学者・秋田公立美術大学大学院准教授)

1974年東京都生まれ。シッキム、ダージリン、カトマンドゥ、東日本等でフィールド調査を行ったあと、環太平洋地域の比較神話学や非人間種のイメージをめぐる芸術人類学的研究を行う。美術作家、音楽家らとの共同制作活動も行ってきた。2019年、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際芸術祭の日本館展示「Cosmo-Eggs 宇宙の卵」に参加。共著に『野生めぐり 列島神話の源流に触れる12の旅』『Lexicon 現代人類学』など。

 

小田原のどか(彫刻家・評論家・出版社代表)

1985年宮城県仙台市生まれ。多摩美術大学彫刻学科卒業後、東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻にて修士号、筑波大学大学院にて博士号(芸術学)取得。主な展覧会に「あいちトリエンナーレ2019」、「近代を彫刻/超克するー雪国青森編」(個展、国際芸術センター青森、2021)。主な著書に『近代を彫刻/超克する』(講談社、2021)。『芸術新潮』『東京新聞』に評論を連載。

 

鹿野 護(デザイナー・東北芸術工科大学教授)

東北芸術工科大学 大学院修士課程修了。ソフトウェア開発とコンピューターグラフィックスを統合した表現に取り組み、コマーシャル映像からインスタレーション、ソフトウェア開発まで様々な分野のビジュアルデザインを手がける。これまで国内外の展示会や美術館にて、空間展示型の映像作品を多数発表。近年では情報機器のユーザーインターフェイスのデザインを手がける。ユーザー体験と表現のあり方の関係について、表現と技術の両方の視点から研究に取り組んでいる。

 

 

 



若手アーティスト支援プログラムVoyage2024 渋谷七奈展「光源の二輪」